さとしと+actと冥府の王


時に大野智は性を超えた両性具有となる。 
けれど、「人間ではない何か」 を演じることの多いこの人は、性はもとより、果たして本当に現世に存在する人間なのかという錯覚にすら陥らせ、その底知れぬ実態に絶句する。

三次元の世界から二次元というイメージの世界へ身を移す時、千の貌とオーラを持つこの人は、たちまち別の 「何か」 に憑依し、見る者を圧倒する。
どれが 「本当」 の彼で、どれが彼の 「創り上げたもの」 なのかという境界線のない、実はその全てが大野智のひとつの姿。 憑依ではなく彼の内から覚醒するもの。


髪を整え、フードをすっぽりと黒装束のベールのように身にまとい、無機質な双瞼でこちらを見据えるモノトーンの世界の住人は、しっかりと足を踏みしめ、確実にそこに存在しているにもかかわらず、その反面、現世と冥府との中有にいる、実態の確立しない何か別の存在のようにも見える。
まるでその身を切ると、紅ではなく黒い血が滴り落ちてくるかのような。


「悪魔」 か 「死神」 か。

 

「悪魔」 ではない。 なぜならこの存在は人を堕落に導かない。 ならば、見る者を浄化し、魂を鎮め、静謐の世界へと導くかのようなこの存在は、さしずめ魂のみが現世に残り、彷徨い続けるのを防ぐため、寄り添うように冥府へと送り届け、次なる輪廻転生を生む、再生の神 「死神」 というべきか。


光のない、音すら感じない世界にただひとり、取り残されたのか、誰かを待っているのか、小さな王冠を戴冠した Prince of darkness。
誰かの魂には寄り添っても誰かが寄り添ってくれる事はない、永遠の深淵に生きるかのような果てのない孤独。


わずかに届く小さな弱い光のなかで、まるで幼子のように眠る。 誰も触れてはいけない無辜の眠り。
その閉じたまぶたの下で見る夢は、かつて愛する人に抱かれた遠い日の記憶か。
眠りから覚めたその目に映るのは、希望、それとも絶望。 おぼろげに見つめるその先に何を見る?


ブロンズのダリアの花弁のような美しい髪。
悠然と横たわる細い身体と横顔は、気品に満ちた美の権化。
寄りかかり、イノセントでありながら物憂げにこちらを見つめるその姿が、またしても性を超越する。 そしてそれは、誰かを抱く性ではなく、抱かれる性。 選ばれた者だけが触れることを赦される気高い性。


現世と冥界の狭間を浮遊する危うい存在から、確固たる意志を持つ存在に還る。
同じように黒いベールをまとっても、その穏やかで光を蓄えた眼差しは、体内に温もりのある紅い血が流れていることを証明する。
レンズの向こうにある幾万の目を、全て受け止める覚悟を持った瞳。
この先も自らの内に持つ様々な貌で、見る者を翻弄する表現者 「大野智」 の貌。